side狩野 (vol.3)



 駐輪場の入口に着いた時点で、左はじのほうに相川がいることには気がついていた。
 ちっ…ニアミスか。かちあう前に出ようと思ってたんだけど。

 さりげなく目をこらすと、横にあるのは見覚えのある、田島のチャリで、おおかた田島に乗せて送ってもらうのだろう。
 幸い桜井は気付いてないようなので、俺は軽快さを心掛けながら桜井に話し掛け続ける。

「お好み焼きとラーメンどっちがいい?」
「え、どっちでも」
「じゃあ俺はー」

 かしゃんと音がした。
 桜井が、振り返ってしまう。
 あーあ。
 その瞬間、桜井の表情が、かすかに、でもたしかに強張るのを、なす術もないままで見送っていた。


     ほらみろ田島。おまえがさっさと覚悟を決めないから
     誰も彼も傷だらけじゃないか

 こころのなかで悪態をつきながら、でも誰も彼もって誰だ?と反射的に分析する。

 俺か?まさかな。
 俺は今、傷ついてなんかないだろう?

 自問してみたけど、実際のところよくわからなかった。
 桜井がすきなのかどうかなんて、やっぱり俺にはわからないよ。
 ただ、無駄に傷ついたりはしないとのいいに。
 それは個人的な思慕なのか部活仲間に対する一般的友愛なのか。
 だれか俺の代わりに、きっぱり決め付けてはくれないだろうか?
 そのほうがよっぽど、信用に値する気がするのに。


 桜井の視線が相川から外れないのを見て、仕方なく俺は桜井の肩を叩く。
 俺の気持ちのありかがどこにあるかは分からなくても、それでも、嫉妬とか執着とか、そんな負の感情のさなかには、長くなんていないほうがいいんだ。

 「俺は今日はお好み焼きの気分なんですけど」

 振り返った桜井の表情がみごとに抜け落ちていて、俺は目を伏せたくなった。
 だけどなんだかやたらに不安になって、ぼんやりと見返す桜井の目にひかりが戻って、うんいいよ、と、小さく答えるまで、じっとじっと見つめてしまった。

「いこう」

 そういった彼女は、儚くて、でもしたたかで、俺はつい、柄にもなく目をみはり、労るように笑いかけていた。

 でもこれは、恋愛感情なんかじゃないんだろうな。
 桜井とか、田島とか、見ていてそう思う
 それは俺にはいまだに欠落しているような気がする。もっときっと、まっすぐに求める感情なんだ。誰かの存在を。純粋に。

 それが俺には欠けているんだ、というよりも、まだ。
 みつかっていないんだろうな。


 駅の方向に走りだす。ちりちりとかすかに、チェーンが回る音を聞く。
 聞き慣れた自分の自転 車の音のほかに、よく似た知らない音が被さる。桜井がちゃんと、ついてきているのだろう。
 ほんの少し暗くなってきたから前輪の横を蹴ってライトを付けると、つられたように後ろからがしゃん、と、同じように前輪を蹴ったような音がした。




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