side狩野 (vol.4) 弱々しい自転車のライトが、薄っすらと周囲を照らす。 ふたつ、重なった部分だけが、いっそう明るく透き通る。 それはどこか、未来を切り開く鮮やかなイメージで。 一人では霞んだままの世界が、もしかして誰かと一緒なら、嘘みたいに開けていくんじゃないのか? なんてな。 冗談紛れに想像してみる。 それはなんて優しくて、なんて難しい条件だろう。 高校時代なんて、彼女がいるかいないかで雲泥の差なんだよ、ほんとに。 自分以外の誰かを、それほど強く思えるなんて。 すごい、幸運だって思わないか? 下世話だなぁ狩野はって、田島は笑うかも知れないけれど。 こんな不安定で中身のない俺に、田島は何を託そうというのだろう。 あいつは俺のことを、何故なんだかひどく買被っているんだ。 伸び上がるように上体を起こす。腕を伸ばしてハンドルに体重をかけて、そのままペダルに立ち上がる。坂でもないのに立ち漕ぎをすると、スピードがあがってTシャツがはためく。 このまま紛れてしまいたい。些細な自分も、他愛ない鬱屈もすべて。 このまま溶けてしまえばいいのに。 強く風がふくと時々、そんなことを考える。時々。ほんの時々だけれど。 後ろから弱い光が遠ざかって不意に暗くなって、一瞬桜井を忘れていたことに気付いた。うっかり引き離してしまった。慌てて速度をおとし、距離がつまるのを待ってまた足に力を込める。 そういえば言ってなかったけど、お好み焼き屋は駅よりさらに向こうで、まだちょっと結構遠いいんだけど、別にいいよな?かわりに安いし、かなり旨いからさ。 ほんの少しまだ、一人にはなりたくないのだ、ということを認めるのは。なんだか崩れていきそうで怖かったけど。 ほんの、少しだけでも。 誰かと感情を共有したいなんて、そんなのなんだか変だよな、と、思いながらまっすぐ自転車走らせた。 共有なんて、そんなこと、まともに叶うはずもないのに。 俺は何を探しているのか。何が足りなくてこんなに危ういというのか。分からないままで、強くペダルを踏み込んだ。顔に、胸に、ぶつかる風の抵抗を感じる。 いっそ吹き抜けてしまえばいいのに。 薄暗い夕闇の中、弱々しいライトが懸命に道を照らす。 かすかに明るく重なり合った場所ばかり見つめながら、ちりちりと小さく鳴り続ける二つの音を、ずっと聞いていた。 その音は、不思議と心地よく耳に響いて。 静かに、真っ直ぐ深く届くようで。 そっと、耳を澄ます。 ずっと、絶え間なく響いてくれればいい。 ただ、軽くささやかなその音が。 俺の、平らかで滑らかでまるで掴み所ないこころの表面に。 何かかけがえのない綺麗な模様を、刻み付けてくれるような、そんな気がしていた。 ≪END≫ BACK← |
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