君のため (vol.2)



 正月気分がぬけてきてようやく落ち着いてきた街を二人でふらふら歩いていた時に、彼女はふと思いついたように言い出した。

「ねぇ。クリスマスにさ、何か買ってくれるっていう話はまだ生きてるの?」
「ああ、うん。いいよ、何でも」
「何でも?」

 できれば消耗品はやめて欲しい。米とかそういう食料もちょっと。もっと言うなら電化製品もなんだか可愛げがないからやめて欲しい。
 けど、そんなことを言ったら彼女がまた何も言わなくなってしまうかもしれないから我慢する。

「いいよ、何でも。…さほど高くなければ」
 さすがにエルメスのバックとか言われたら買えるわけがない。
「さほど高くなければね」
 彼女はちょっと笑って歩いていく。目的地は決まっているらしく迷いのない足取りだけれど、僕にはどこに向かっているかさっぱり分からない。どうやら駅前に向かっている。
 大きい家電屋の前を通りかかった時に、ああ、やっぱり電化製品かもしれない…と、思って落胆したけれども、彼女が入って行ったのは隣のファッションビルで。
 立ち止まったのは意外なことにアクセサリー売り場だった。

「ここ?」
「ここ」
 無愛想にそういったきり彼女は無口で、しきりにショーウインドウを見ている。
 そうして、あれこれ手にとって、色々嵌めてみたりして、だいぶ長い間経ったあとで、これ、と指差したものは可愛らしい形をしたリングだった。しかも新春セールの赤札がついている。

「これ?」
「これ。だめ?」
「だめじゃないけど。セール品じゃなくても…」
「半額になってるし、さほど高くないかなと」
「や…別に…バイト代入ったし…セール品じゃなくていいよ」
 僕としては、なんていうかもっとちゃんとしたものを贈りたかったわけだけれども。
 非常に現実的な彼女は不思議そうな顔をしていて、安いに越した事はないとか思っているのだろう。
「ほんとにこれでいいの?」
「これでいい」
「別にセールかかってるのから選ばなくてもいいよ?」
「これでいい」

 断固とした言葉で言い張っているので、これはもう引かないだろうと思って僕は内心溜息をつきながら諦める。なんだか、買ってあげるみたいになってしまって贈った気分にならないのだけれど。

「こっちとどこが違うの」
「え?サイズが違う」
「サイズ?」
「指輪にはサイズがあるのだよ。知らなかった?」
「うーん。それいくつ?」
「これ?11号」

 実は、S、M、Lだと思っていたなんて絶対言えない。



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