side田島 (vol.1)



 どうしても手に入らないのなら、ずっと。
 見守っていこうと決めていた。
 それは強固で、しかも密やかな決意で。
 誰にも知られないはずだった。

     ☆

「偽善者・・・」
 その小さな呟きが耳に届いた時、その言葉のあまりのもっともらしさに、俺は驚いて目を見張った。
 そうだ。確かにその通りだ。
 そうか、俺は偽善者だったのか、と。俺は目をあげて声の主を探した。
 怒りも、痛みも、何もなかった。
 もっともだ。その通りだ。俺は偽善者だったのだ、と。
 ある種の感慨を覚えていただけだった。


 声の主は簡単に見つかった。真っ直ぐにこちらを見ていたからだ。
「桜井?」
 声をかけると、弾かれたように逃げ出そうとしたので、俺は怖がらせないようことさらのんきな声で呼び止めた。

「ちょっと待てよー、桜井」
 観念した、というように立ち止まった桜井が、ゆっくりと振り返る。
 別に、怒鳴りつけたりなんかする気はないのに、伺うように警戒した目で。

    俺が偽善者なら、さしずめお前は正義の味方か?

 俺はゆっくりと立ち上がり、ゆっくりと近づいてゆく。
 怯えたように半身をそらす桜井に向けて両手の平をむけて宥めながら、彼女の顔を覗き込んだ。

「やっぱりそうかな」
 彼女が瞬きを繰り返す。
「やっぱ俺、偽善者かな」
 むっとしたように、瞬きをとめてじっと見返してくる。

「そうよ」
「だよな。俺もそうなんじゃないかと思ってた」
「なんだ、自覚してたの」
「まぁそれなりに。でも、ばれるとは思わなかったな」
「凄い自信」
「そうかな」
「そうよ」
「桜井は、頭がいいね」
「なによいきなり」
「よく分かったね。どうして分かった?」
 強気な態度はかろうじてそのままに、彼女が言葉を失う。
「桜井は俺のこと、よく知ってんだね」
 追い討ちをかけて追い詰める。
「俺のこと気になる?」
 顔が赤くなるよりも先に唇が小さく震え、思い出したようにふっとのけぞる。
 そして、今度こそ立ち止まることなく逃げていってしまうのを、呼びとめもせずに見送った。


    これじゃぁ偽善者どころじゃないな。

 ただの悪者だ。完璧に。
 分かっただろう?桜井。
 だからもう、俺なんか見るな。
 お前はずっと、綺麗なままで。
 綺麗なものを見ていればいいんだ。





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