君のため (vol.4)


「指輪は死んでもいやだって言わなかったか?去年」
「さぁ〜どうだったかな」
「去年ペアリングにしようかって言ったら全否定したくせに」
「それはさー、まだ覚悟が足りなかったからね」
「覚悟ねぇ…」
「残るものを貰うのって怖いじゃん」
「で、覚悟できたの?」
「さぁねぇ」

 謳うように言って軽やかに足を早める。
 しょうがないなぁと思いながら、僕はのろのろとついていく。
 でも、だいぶ先に行ってしまった彼女が早く早くと急かすように振った手には確かに銀色のリングがはまっていて、何だかまんざらでもない気分になる。
 エンゲージリングでもあるまいし、物は物だろうという気がしないでもない。けれどふとした瞬間に、僕が贈った指輪が光を跳ね返すのは、悪くない。
 悪くないから、来年はもう一回り小さいのを贈ってやろう、と決めた。
 彼女は嫌がるかもしれないけれど、そんなのはどうせ照れとか意地とか過去とかそんな下らない理由なんだ。
 そうして、そういうくだらないものを取っ払ったその下に、彼女はとても綺麗な笑顔を持っていて。
 ひどく不器用なだけなのだ、ということを、僕はもう知ってしまっているから。

 彼女がどんなに意地っ張りでも頑固でも、勝手気ままで掴めなくても。
 彼女が笑ってくれるなら、僕は、何でもできるような気がしたりする。
 そんな小さな指輪一つで、彼女が一瞬でも素直になれるのなら、僕は。
 毎年だって飽きずに贈る。

 君が笑ってくれるなら僕は、ひどく幸せな気分になるよ。


「なぁ〜今晩鍋しようぜ。鍋」
「おおっいいねぇ。何鍋にする?」
「そうだなぁ、寒いからあったまるのがいいなぁ」
「そんなら材料買いにいこ。あのホットプレートはほんとに便利なんだ」

 急に張り切った彼女が、僕の手を引いて歩き出す。
 右手に当たる固いリングの感触が新鮮で、僕はまたそっと一人で、気付かれないように小さく笑った。



≪END≫

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