side田島 (vol.7)



 夕焼けの町は、いつもの通りに鮮やかで優しかった。
 俺は、この沈み行くような時間が好きだった。
 赤くて、眩しくて、一瞬で。
 幻みたいにすぐに消えていく。


 相川を自転車の後ろに乗せて帰るのことには慣れている。俺たちは小学校も中学校も同じで、だから家も近くて、相川がバスで登校した日には、ついでだからと乗せて帰る。
 それはよくある光景で、慣れた日常のひとコマで、別に、特別な意味なんかないはずなのに。
 両肩にかかる微かな重みが、その手の、感覚が。今日に限って妙に生々しくて、どうしたらいいか分からなくなる。
 相川の何が変わったのかな、と、思ったけれど。
 違う。
 変わったのは、俺だ。

    狩野が余計なことを吹き込むからだ…

 どうせなら、百戦錬磨の口説き文句なんか教えてくれたほうが良かったのに…

 駆け出しそうな鼓動を押しとどめるように、俺はゆっくりと深呼吸する。
 肩につかまる相川に気付かれないように、そっと。

「私さぁ、また振られたわ」
「うん」
「もう何度目だっけ」
「さぁ」
「なんか、振られてばっかよね」
「だな」

 なんでかなぁ…?私、なんかだめなのかなぁ?と、呟いた言葉は、平静を装っていたけどうまく取り繕えていなくって、なんだか痛々しく響いた。けれど、俺はそれにも気付かないふりをしてしてやった。
 相川がうまくいかない理由なんて俺には分からない。けれど、うまく行かなくていいと思ってる。

 全然、まったく構わない。そのほうがずっといいに決まってる。
 でもたぶん。いつか、もうすぐそのうち。
 気付く奴なんて出てくるんだろうな。俺以外にも。
 相川は、凄く綺麗に走って。それは、音もなく吹きぬける風みたいで。
 相川の手は予想よりずっと華奢で、頼りなくて。
 かけがえがない存在だと、気付いて手に入れたくなる奴が。

 そいつを目の前にしたとき。その隣に並ぶ相川を見たとき。
 俺はどれだけ平静でいられるだろうか?



 川沿いの道を走っていた。
 ゆっくりと、ブレーキをかけて速度を落とす。
 え、なに?と、相川が怪訝そうに声をかけるのも無視して俺が自転車を止めると、相川も後輪から飛び降りた。

「どうしたの?」
「ん」

 水面に反射した夕焼けの残りが相川をオレンジ色に染めて、俺は、ひとつの確信をする。

    やっぱり、やっぱりな……

 オレンジ色と影の、強いコントラストの中で、相川がひどく、鮮烈に目に映る。目を閉じても、そらしても、その印象は鮮やかなままで。

 もう、無理だ。幾ら深呼吸したって全然。
 薄れてはくれない。
 もしいつか。誰かが。
 この稀有な存在を、連れ去ってしまうのを俺は。
 ただ黙って見送っているなんて絶対出来ないだろう。
 そのいつかっていつだ?と、だけどどうせまた上手くいかないに決まってる、と、勝手な不安と期待に揺すぶられ続けてきたけど。
 たぶん、もう、潮時だ。
 ずっと、ずっと近くで見守っていられればいいと思っていたけど。
 この平和を、全力で守りたいと思っていたけど。

 もう、限界だ。


「ねぇ相川」
 なるべく静かに聞こえるように、そっと注意深く口を開いた。

「ん?」
「振られた直後に悪いんだけど」

 逸って上滑りする事のないように。

「なによ」
「お前今好きな奴いる?」

 焦って怯えさす事のないように。

「だから今日、振られたばっかだって」
「じゃぁ、考えてみてくれないかな」
「何…」
「俺のこと、対象内にしてくんないかな」

 川沿いに植わった桜がざぁっと鳴って、夕方の風が吹きぬける。
 薄暗くなりかけた空にまだ星はなくても、今、相川が、目を丸くして固まるのが分かった。

「相川はかわいいよ。俺、ずっと、そう思ってたんだ」

 ゆっくり静かに言葉に乗せる。
 ありのまま正しく伝わるように。



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