side田島 (vol.5)



「相川の幸せを願うなら、お前が体張りゃーいいだろ?所詮他人なんか宛にすんなよな」

 振り返った狩野は、静かに淡々とした口調で、だけど一刀両断だった。

「俺はお前、狩野のことは信じてるよ」
「別に嬉しくねーよ」
「そーか?」
「当たり前だろ?」
 狩野はあっさりと俺の願いを退けながら、それでもまだ隣にいてくれた。

     そろそろ相当呆れられてると思うんだけど…

 俺は、手の内をさんざんばらしてしまった気まずさに打ちのめされながらも、それでもまだ救いを求めるように、狩野に頼っているのかもしれない。

 狩野は賢くてテニスも上手くて、本当によく出来た男で、俺も狩野みたいに出来がよければ、こんな狭いところにはまり込まなかっただろうか?
 狩野だったら、もっとうまくやれたんだろうか?
 例えば身動きが取れなくなるほど、相川が大切で仕方がなくなる前に。


「田島はなぁ、贅沢だよ」
「そーかな」
「そーだよ。誰かを傷付けたくないなんて、自分を自己嫌悪から守りたいだけだろ?」

 言葉の辛辣さとは裏腹に、狩野の声も顔も穏やかで、俺はやっぱり、狩野には高い評価を与えたくなる。
 俺みたいな不甲斐ない奴より、ずっと幸せにしてくれるような気がする。

「俺ってそんなに痛々しいかね」
「まあね、てか、人に優しくありたいなら、もう少し長い視線で考えろ。このままじゃ誰も彼も傷だらけだろ。見てるしかない桜井の身にもなれって」

 狩野はいつだって冷静で、しかも平等に他人に優しい。いつもそんな調子で疲れないのかと聞きたいけれど、なんとなく聞けないままで甘えている。
 聞いてしまったら、何かが変わってしまう気がするのは気のせいだろうか?

「相川だってなぁ。まだきっと、安心しきってるだけだろう?お前、ずっと見守ってきたんだろう?今更なんの遠慮だよ。がーっと押して押して落としてくるか、それが無理ならさっさと他に彼女でも作れ」

 爽やかな外見とは掛け離れた乱暴なことをいって、それでも狩野は爽やかに笑った。ほんとは誰が好きなんだろうなと思ったけれど、俺はやっぱり気付かないふりをした。


 たじまー、とまた遠くで相川の声がして、狩野がそちらをちらりと見やる。
「まぁせいぜい頑張れよ 。今日は失恋話をきくので精一杯かもしれんけど」
 俺は帰る、と、狩野が立ち上がるのを、ぼんやりと見上げていた。

「なぁ。俺って、偽善者かな?」
「何だ?突然」
 狩野が面食らったように動きを止める。
「さっき桜井に言われたんだよなー。偽善者って。それで俺、ああそうか、俺って偽善者だったんだ、と、思ってさ」
 狩野が、呆れたように困ったように渋々と笑う。
「それはー、桜井もまた思い切ったことを」
「ちょっとびっくりしたけどな」
「てかお前、桜井にまでばればれなのな」
「そう。お前にもばれてるし」
 誰にも話した憶えはないのに。
「偽善者って言うよりも田島はー…ただの不器用だろ」
「そうかな」
「本物の偽善者ってのはきっと、もっとうまくやるもんだろ。気にすんなよ」
「別に気にしてねーけど」
「まぁ、とにかく頑張れ青少年」

 そういって狩野は、俺なんかよりよっぽど油断ならないような隙のない完璧に爽やかな表情を、無意識なんだか知らないが、一瞬にして創り上げた。
 俺なんかの好感度あげても仕方ないだろうに、こういうとき、狩野はすごく狩野らしい、と思う。

 その顔に似合わない、とても同級生とは思えないおやじくさい捨て台詞を残して、狩野は一人さっさと部室棟のほうへ消えた。手にもったタオルをくるくると振り回し、真っ直ぐと伸びた背中は潔くって、なんで狩野には彼女がいないのだろうといつものように考える。
 絶対もてるはずなのに。告白なんてがんがんされているに違いないのに。


 俺の知る限り、狩野はいつだって一人だ。

     知らされてないだけなのかなぁ。

 まぁそれならそれで、構いはしないのだけれど。



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