熱量 (vol.1) 



「あ…」

 思わず呟いた声は小さくはなかったけれど、昼時の学食の喧騒の向こうの横顔には聞こえたはずもないのに。
 何故かタイミングよく振り向いた。目が合う。そのことに瞬時に動揺する。
「何?知り合い?」
 当然聞こえていた隣にいた友達が怪訝そうな声で聞き返しても私はまだ上の空で、視線が上手く外せなかった。
「……飴くれた人だ」
「は?飴?」

 随分と距離を開けたままばっちりと合った目が、一瞬思い巡らすように輪郭を緩めて。そして。
 また確かな形を取る。
 それから。

 小さく会釈した。
 ほんの小さく、首を傾げるみたいに、微かに。でも確かに。

    あ…

 つられるように、小さく返した。
 そして、そのまま前を向いて、遠ざかってしまう後姿を。
 なす術もなく見送っていた。


「あれ、誰?」
 隣の友達にもう一度聞かれて、ちょっと我に返る。
「あの人、昔、飴くれた」
「だから飴って……いつ?」
「ずっと前…えっと、中学の頃。ああそうだ、だから、中学の同級生」
 そう答えたら、彼女はひどく呆れた顔をした。
「普通さぁ、聞かれたらそうこたえるでしょ?」
「うん、でも…」

 あの人は飴をくれた人だ。
 飴っていうか、確かそう、キャラメル。
 別に、仲が良かったわけでも嫌いだったわけでもなくて。
 一度だけ何故か、キャラメルをくれた人。

「うちの大学なのかな…」
 注文した学食の安いカツカレーを食べながら、独り言みたく聞いてみた。
「それは、そうでしょたぶん。学食だし」
 正面できつねうどんを食べていた友達が、律儀に答えてくれる。
「そっか…だよね」

    同じ大学に来てたんだ…

 別の高校に進学した、特に付き合いもなかった中学の同級生の進路なんて、知るわけもないけれど。
 
 あの人は、一度だけ何故か、キャラメルをくれた人。
 それ以上でも以下でもなくて、だけど、覚えてる。



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