あの頃



 だってお前野球部だろう?

 そうだ、確かに僕は野球部だ。
 だけど、それが、なんだって言うんだ?
 今更。
 昔の事なんて、僕にはさっぱり関係がない。
 知りたくもない、と、言ったらたぶんちょっと嘘。




「片山さんと滝先輩って昔付き合ってた?」
「片山に聞いたのか」
「聞いてない。さすがに俺だってわかる」
「まぁそうか」
「いつ」
「いつって言うか、もうずーっと。3年くらい」
「3年…長いな」
「なげぇよ。高校生だぞ?なんだかいとこ同士みたいにどこか似通った二人でさ、仲がよくて、囃し立てるのもばからしかったわ」

 似通ってる?
 片山さんと先輩は、今は全然印象が重ならないけれど。

「可愛かった?」
「まぁ、可愛かったんじゃねぇ?」

 どこではぐれてしまったのだろうか。
 今、片山さんは可愛いというよりはむしろ。
 秋の空みたいに静かに綺麗だ。高くて遠い青空みたいに。

「卒アル見せてよ」
「ねぇよ」
「あるだろ?どっかに」
「やだよめんどくさい」

 しばらく食い下がったけど、兄貴は絶対見せてくれなかった。


「学年公認のやたら有名なカップルでな、誰も割っては入れなかったよ。片山人気あったんだけどさ、あんまり有名だから、誰も声なんかかけられないから、だから片山だけが知らないんだ」
「実は人気あったってことを?」
「男なんて他にいくらでもいるってこと」


 いつも掴み所のない兄貴が、珍しく饒舌で。

 だから。

 他って誰?とは。

 いくら僕でも聞かなかった。



BACK← →NEXT








夏の記憶INDEX   

サイトTOP   


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送