きずあと



「そういえば、何で知ってるの?彼氏のこと」
「指輪してるから…」
「ああ、これか。これだけで彼氏がいるって思った?」
「はい」
「指輪なんかしてたって、別に彼氏がいる証明になんかならないじゃない」
「そうだけど」

 時々ひどく真剣に見つめていたりするから。
 大事な人に貰ったんじゃないかって思ったんだ。

「それにこれ、普段はしてないし」
「いつもしてるじゃないですか」
「そう?よく見てるね」

 彼女は面白そうに笑う。ああ、また失敗した。僕はこういう時彼女に比べて本当にただのガキで、まったく敵わない。兄貴に対しても同じだ。いつだって墓穴を掘ってはからかわれる。
 たまたまです、と強がってみても苦しい言い訳で、後ろにいる彼女の表情は見えないけれど。どうせますます面白がっているのだろう。そうしてまた誤魔化されてしまうんだ。聞きたい事はいつも。

「だけど彼氏に貰ったんでしょ?それ」

 もういいや。こんな人と上手く駆け引きなんかできるわけもない。どうせ僕の気持ちなんてばればれなんだ。妬いてるように聞こえようと拗ねてるように思われようと、もうどうだって構わない。
 ただ、本当の事を知りたかった。せめてもう少しだけでも。

 彼女は強く肩を握り締めていた。
 Tシャツ越しに、左手の指輪の堅い感触が当たる。
 僕は女の子に、指輪を贈った事なんかないけれど。
 そんな小さなわっかで、彼女を繋いでいる奴を強く意識した。

「違うよこれ」
「え?」
「彼氏に貰ったわけじゃない」

 じゃぁ誰に、と、僕はこのとき聞けばよかった。
 余りにもあっさりと思い当たってしまったから、動揺して聞けなかったけれど。
 彼女の口からちゃんと名前を聞いていれば、もう少し楽になれたかもしれないのに。



 僕は替わりに違うことを訊ねていた。

「彼氏とは、それで、上手くいってるんですか」
「唐突やねぇ」
「だって、普通、指輪なんかしてたら聞くでしょ。男なら」
「君みたいに?」
「そう、俺みたいに」
「だって普段はしてないもの」
「ああ、それってそういう意味」
「そういう意味よ」
「隠し事はよくないですよー」
「隠し事って言うか」
「だって彼氏知らないんでしょ」
「て、いうよりも、過去の遺産」
「何それ。意味わかんねぇ」
「消えてなくなりはしないってことだ。まぁいいや、わかんなくても」

 そうやってすぐ人のことをガキ扱いして…

「…それほどちがわねぇくせに……」
「え、なんて?」
「や、別に。で、なんで最近はしてるんですか」

 昔の彼氏から貰った指輪なんて。
 普通捨てたりするもんなんだろ?
 気まぐれに嵌めたりするもんじゃないだろうに。
 それほど先輩の事がまだ好きなのだろうか。

「あー、たぶん、感傷かな。それももう最後かなぁ」

 …感傷?
 見えかけた気がした彼女の内心は、やっぱりよく分からない。



BACK← →NEXT








夏の記憶INDEX   

サイトTOP   


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送