真夏日



「おはよう。早いね」
「今日は予備校ないんで。夏休み、ていうかお盆休みで」
「ああそうか。なるほど。もう8月も半ばなんだ」
「片山さんいつもこんな早くから来てたんですか」
「そうよ」
「何してるんですか」
「勉強」
「大学生もそんな勉強とかするんですねぇ」

 そういうと彼女は本当におかしそうに笑った。

「なに?君は大学に入ったら遊び倒すつもりだね?」
「もちろん」

 図書館の自習室、辺りを憚ってか、彼女は声は立てずに、でも本当におかしそうに笑い続けている。僕は何か変なことを言ったのだろうか?

「なんすか」
「いや、なんでも」
「俺は、大学入ったら遊びまくりますよ」
「ま、とにかく、まずは大学に入ってください」

 兄貴にしても彼女にしても、僕はいつだってちょっと小馬鹿にされているようで。憮然とした表情を作っても、それすら面白そうな顔をして見ていて。

 いつだって、まともに扱ってくれやしないんだ。



 真夏日記録更新中。
 本当に暑い夏だった。
 目が痛くなるような青すぎる空から、ひりつく様な強い太陽が照りつける。
 冷房も効かない街の図書館で、先の見えない底なしの受験勉強。
 うんざりしないわけもない。
 けれど。
 こんな日々がでもいつまでも続けばいい。



「お前さー、今日図書館にいた?」
「いたけど」
「俺も今日、文献探しにいったんだけど」
「まじで?しらんかった」
「お前さー、片山と知り合い?」

 兄貴の口から突然飛び出した予想外の名前に、僕は一瞬で動揺し始める。

「片山って、片山さん…」
「今日向かい合って座ってたの片山だろう?あれただの偶然?」
「偶然って言うか…」

 混乱を続ける頭のどこかで警鐘が鳴る。聞かなければいい。偶然だと言い張ればいい。

 それなのに。


「あの人は、やめとけよ」

 兄貴が言った。唐突過ぎて、意味が分からない。

「え」
「あの人は無理だよ」
「なんで」
「なんでも」
「知ってんの?」
「まぁそれなりに」
「なんで兄貴が知ってんの?」
「なんでも」
「教えてよ」


 だってお前野球部だろう?


 兄貴は、当然だろう?という顔をしていて、ああ、きっと、何も知らないのは僕だけなのだ、と思う。



 片山さんは、本当はいくつなんだろう。二十歳くらいに見えたんだけど。

 兄貴も僕と同じ御園の卒業生で。

 それから滝先輩も。


 それから、きっと、片山さんも。



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