sideA:消えない。



 好きより上って何かなと君が聞くので、分からないといった。
 小さくついた私の嘘を、君は静かに見抜くだろうか。



    遠ざかっていく気配の中で
    なす術もなく立ち尽くしていて
    別に気を引きたかったわけじゃないけど
    気が付けば告げていたんだ。

    愛してるなんて言葉に比べて
    自分はひどく幼い気がして
    せめて見合うような女になるまで
    口にすまいと決めていたのに。
    手に余るようなこの重い言葉に
    いつか自分が向き合えるまで。

    溢れて止まなかったんだ。
    今伝えなければ。
    いま、全て伝えなければ。
    永遠に届かないような。
    いつだって言葉は足りない
    この想いの全てを全部、乗せて運ぶような言葉はなくて。

    愛していたよ
    あなたのことを
    生まれて初めて
    翳りなく本気で
    愛していたよ

    私はひどく泣いていて
    宙に浮いたその言葉は、過去形に飾られていた。
    遠い遠い遠い日の記憶



 今私の背中を暖めてくれている人が、くぐもった声で言った言葉を、本当は聞こえていたけれど。
 私もよ、とは上手く言えないで、だから黙ってじっと誤魔化していた。
 愛だなんて重い言葉の、記憶をいくつも持つにはまだ。
 私は未熟で。
 進行形で告げる覚悟もなければ、もう過去形にして飾れもしなかった。
 でも今君の事を、とてもとても好きだということは、それだけは、嘘ではなくて。
 仕方がないからずっと黙っていた。

 愛していたよと告げたあの日の自分の声が、ぐるぐるとぐるぐると回って。
 息苦しくなって目を閉じた。
 回された腕が温かいことをようやく思い出す。
 少しだけ寄りかかってみても。
 取り繕っても必死だった声が。
 小さな耳鳴りのように鳴り続けて。
 ぐるぐると。ぐるぐると。
 巡り続けて。
 まだ、
 消えない。





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