理由 「より戻したりはしないのか?」 「今更か?今更だろう?」 「そうかな」 「そうだろ。だってもう何年前だよ。俺、今、彼女いるし」 「そんなこと、関係ないじゃん」 「そういうわけにもいかないだろ」 「片山は?」 「さぁ。ちょっと前は誰かと付き合ってたけどな」 「指輪してたってさ」 「指輪くらいするだろう。もう、ガキじゃないんだし」 「どんな指輪だったかは知らないけど」 「お前の弟か?情報源は」 ちょっと困ったような顔をして、滝が珍しく言い当てた。 いまだに野球バカの滝は、大学で体育会の野球部に所属した上に母校の野球部のコーチまで引き受けていた。 弟は、ついこないだまで滝の指導を受けて、遥か遠く甲子園を目指していた。 あの頃の滝みたいに。無理だと思っいながらも、きっと本気で。 「よく分かったな」 「夏に一度、言いにきたんだよ」 「なんて?」 「お前と同じ。より戻さないんですかって」 やっぱり血は争えないんだろうか。弟は俺と同じ人を好きになって、滝に同じ事を言って。好きなら人のことなんか気にしないで強く出ればいいものを、それが出来ないところもやけに似ている。 「こないだの夏休み、片山帰ってたんだって。知ってた?」 「知らねぇ。連絡ないもん」 「で、図書館で会って、弟と一緒に勉強なんてしてた」 「図書館…」 「お前らがよくいたあの図書館」 「まったく、何年たっても何も変らんもんな。この街は」 滝が気まずそうに苦笑して、俺はそんな滝から目をそむける。 何でこいつらが別れて、ずっと今も、一緒にいないのか。そのことが俺にはどうしても上手く府に落ちなくて、そのせいでいらない気を使ったりする。 二人が一緒にいてくれさえすれば俺は、片山の事なんか心配にならなくて、俺の気持ちなんかも、直視なくてすんだのに。 滝には新しい彼女がいて、片山には今の彼氏がいるらしい。 だから、それが、なんだって言うんだ? そんなこと、何の理由にもならないじゃないか。 好きならもう一度、やり直せばいいじゃないか。 |
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