羨望と希望と



 片やつかみ所ない才媛。片山は不真面目だったのに本当に頭が良かった。そして、片や明快な野球ばか。

 明らかにミスマッチだ、と思われていた二人は、予想に反してひどく仲が良かった。そしてそのうち、他の組み合わせが思いつかないほど見慣れた二人になっていた。
 先生達すら知っていたんじゃないかと思う。二人は淡々と付き合っていた。喧嘩や別れ話のシーンなんて見たこともない。そういう意味ではひどく話題性のない二人だった。
 けれど、たぶん、学年では一番有名な二人だったと思う。


 特にべたべたしていたと言う記憶はない。むしろ、学校にいる間はあえて別行動をとっていたように見えた。片山は、クラスメイトの滝と彼氏の滝をしっかり分けようとしていたんだと思う。
 同じクラスのくせにさして喋りもしない二人が、学校の外ではひどく仲良さそうに手を繋いで歩いていたりする。俺はそんな二人をよく目撃していた。

 滝はよく、片山を自転車の後ろに乗せて走っていた。片山は後輪に立ったまま滝の肩を抱くように腕を回して掴まっていて、あれは、なんだか、見本みたいなカップルの図だったな。
 片山が自分と滝の鞄を二つ交差にして両肩からかけていて、綺麗な髪が風に乗って。


 そういうときだけだ。俺が、滝を羨ましいと思ったのは。
 どこか、ぐっと、胸の奥がひどく苦しかったのは。
 だけど、割って入ろうとは思えなかった。二人は本当に仲が良くて、壊せる気がしなかった。壊したいとも思わなかった。
 俺はただ、時折息苦しさに耐えながら、何となく遠巻きに眺めていただけだ。

 二人はあのまま、ずっとずっと行けばいいと思っていた。
 それは予測とかいうよりも、俺の希望的観測のようなものだったかもしれないけれど。
 二人はあのままずっと一緒で、いつか結婚でもすればいいと思っていた。
 拗ねてるわけでもひがんでるわけでもなくて、俺はこころからそう思っていたんだ。

 二人は俺たちの小さな希望で。
 誰も言い出さない控えめな羨望だった。


 俺たちは、こんな古びた校舎に、ひとかたまりに集まっているけれど。
 卒業したら、放射状に離れていく。そんなことは分かっていたんだ。
 今は確かに同じ場所にいるけれど。
 今はまだ肩が触れるほど近くにいるけど。
 俺たちは。
 放射状に離れていく。
 加速度をつけて。
 もう二度と重ならない日々。
 そんな未来のことは。
 俺たちだって分かっていたんだ。
 願っても。祈っても。避けられない、そんな未来を。
 予感しながら、目をそむけていた。
 分かっていたけれど、口には出さないまま。
 ただ、もしも二人が、そんな未来に対抗できたならいい。
 このままずっと、二人離れないでいれたならいい。
 俺は柄にもなくそっと目を閉じて、そんなことを願ったりしていた。
 

 ただ、月日は残酷に流れて。
 そう簡単に上手く行くわけもなかったというだけだ。
 特別に見えた二人だって、ただの同い年だったというだけだ。



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