春休み (vol.7)



 アルバムを閉じた。いつか聞いたのと同じ、ぱたりと密やかな音がした。
 表紙を上にして、元あったように机の上に据え置く。
 指先に残る、ざらりとつめたい感触を確かめるように、表紙をなぞる。
 僕のではない、けれど、僕のと同じ卒業アルバム。

 僕の3年間も閉じたのだ。この短い春休みをあければ、そこにはまるで、新しい日々が待っている。
 見知らぬ人と、見知らぬ場所で、僕はまた自分の居場所を、一から作り直していく。
 まるで新しいようで、きっと。
 どこかで知っているような気だるい循環。それは結構、面倒な事にも思えるけれど。


 螺旋階段をぐるぐると上り続けるように、さして変わらない景色を眺め続けているうちに。
 いつか僕は、知らずにおとなになるだろう。
 いつの間にか兄貴の考えている事とかが、よく分からなくなったように。
 僕もきっと、さり気なく滑らかに成長していくのだろう。
 何も、劇的な何かなんかなくたって。

 僕たちは上り続ける。変わらない毎日に悪態をつきながら、目新しい何かを探し続けて。
 ぐるぐると、ぐるぐると、果てなく希望もないような気がしたって。
 上げた視線の先には、ぽかんと開けた空がある。
 あまりに広すぎる青空の中で、ふいに闇雲な不安に苛まれたとしても。
 それでも、僕は、決して独りではないだろう。

 親しかった友達と、はしゃぎまわった部活仲間と、ちりぢりに離れてしまったとしても。それでも。
 みんな、みんな、きっとぶちぶち言いながらも、それぞれの螺旋階段を、登り続けているに違いないから。
 見渡した広大な視界の中に、今はまだ、なにも見つけられないとしても。
 いつだって、いつだって、そうだったじゃないか。未知の未来は、いつだって不安を掻き立てるけど。

 真っ白な未来は、明るく耀いて僕を誘う。


 僕は高校を卒業した。この短い春休みを抜けたら、大学生とやらになるらしい。
 大学生の生態というのは、あいかわらず謎に満ちているけれど。

     まぁ、いいか、なんだって

 凄く楽しいかもしれないし、別にそうでもないかもしれない。
 刺激に満ち満ちているかもしれないし、退屈がまつわりついているかもしれないけれど。
 まぁいいや。とりあえず。
 振り返ってみた高校時代は別に、楽しいばかりだったはずもないのに。
 思い浮かぶ断片はどれも、柔らかに暖かく彩られているから。
 だからまぁ、そんな感じで。
 まだ見ぬ広大な未来とやらも、きっと幸福な日々であればいい。



≪END≫

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